取り組みから最大限の価値を得るにあたっては、綿密な生成AI戦略を立てる必要があります。この戦略でカバーすべきなのが、アプリの目的の定義、ターゲットユーザーの特定、リスクの把握、適切な法的措置、ツールの選択といった重要な要素です。以下の手順に従うと、効率的かつ魅力的な生成AIアプリを作成するためのしっかりした戦略を立てることができます。
手順1. AIタイガーチームを編成する
社内のあらゆるエキスパートが集結するAIタイガーチームは、戦略策定を主導するだけでなく、ビジネス目標やユーザーニーズに合う高品質な生成AIアプリの効率的・効果的な開発も行います。そのため、多様なロールを参加させることがプロジェクトの成功につながります。
チームには、アプリのビジョン、戦略、ロードマップの定義や、ビジネス目標やユーザーニーズとの整合性の確保を担う、プロダクトマネージャーが必要です。また、ビジネス部門のドメインエキスパートも必要です。アプリのユースケースに関連するテーマの専門知識の提供や、開発プロセス中の支援やアプリのアウトプットの検証を行います。どのような生成AIアプリプロジェクトにおいても、知的財産権、コンテンツモデレーション、バイアス軽減といった潜在的な法的・倫理的問題に対応できる弁護士とアドバイザーが重要です。
チームには、アプリのアーキテクチャの構築やAIモデルの連携、アプリのパフォーマンス、保守性、拡張性の確保を担うソフトウェアエンジニアが少なくとも1人は必要となります。また、UX/UIデザイナーも必要です。直感的かつ魅力的なユーザーインターフェイスを作成し、シームレスなユーザーエクスペリエンスを提供して、アプリが生成するアウトプットを効果的に伝えることができるようにします。
AIタイガーチームでは、AI/機械翻訳エンジニアとデータサイエンティストが、アプリの生成機能を動かすAIモデルとアルゴリズムの開発・実装という重要な役割を担います。テスト・QAスペシャリストはバグの特定と修正を行い、アプリがパフォーマンス基準や品質基準を満たすことを確認し、生成されたコンテンツの正確さ・適切さを検証します。
タイガーチームの実際の構成は、生成AIアプリの複雑さやスコープのほか、開発計画の内容によって変わります。たとえば、ローコードを使用するのであれば、エンジニア、デザイナー、テスト・QA担当者はそれほど多くなくてもよいかもしれません。
手順2. 生成AIプレイグラウンドを作成する
生成AIアプリケーションの開発には、様々なモデルや手法の検討と実験が付きものです。そのため、次の手順として生成AIプライグラウンドを設定します。様々なモデルの比較やテストは、すべてここで行います。プレイグラウンドでは、組織内の開発者やその他のユーザーが、実践的かつ実験的な場を共有し、様々な最新の基盤モデルやプロンプトを活用して生成AIを検討したり確認したりできます。
プレイグラウンドは、AWS、OpenAI、Github、NVIDIA、Hugging Face、Quoraなどが提供しています。こうしたWebベースのプレイグラウンドの中には、その一部分を開発プラットフォームと連携するためのAPIが用意されているものもあります。ただし、開発者によるデータのインポートが必要になるケースもあり、テストデータを用意しないと問題が生じかねません。従業員が生成AIを安全に試せるよう、WalmartやCBREといった著名な企業では安全な内部用プレイグラウンドを独自に構築し、開発者、IT部門、ビジネス部門がデータの漏洩や公開のリスクなく生成AIエクスペリエンスのAIを体験できるようにしています。このようにしたい場合は、以下を行う必要があります。
目標を定義する
AIプレイグラウンドで何を実現したいのかを決めます。作成したいのはテキストか、画像か、音楽か、翻訳機能は必要か、アプリケーションに生成AIを組み込むのか、生成AIアプリケーションを作成するのか、といったことです。こうした目標がツールやモデルを選択する際の指針になります。
AIモデルとツールを選択する
試したい生成AIモデルを選択します。テキスト生成であれば、OpenAIのGPTやAnthropicのClaudeが適しています。画像生成であれば、DALL-Eのようなモデルを検討するとよいでしょう。代表的なフレームワークには、TensorFlow、PyTorch、Hugging FaceのTransformersライブラリなどがあります。
環境を設定する
開発環境が堅牢であることを確認します。適切なGPUが搭載されたホストマシンや、AWS、Google Cloud、Azureなどのクラウドベースサービスへのアクセスが必要になります。システムにはPythonをインストールする必要があります。AIライブラリの多くは、Pythonとvirtualenvやcondaなどの仮想環境ツールをベースに依存関係を管理しているからです。
必要なライブラリをインストールしてAPIのアクセス権を入手する
選択したモデルに応じて、必要なライブラリをインストールします。GPT-4、DALL-E、Claudeなど一部のモデルでは、APIキーの入手が必要になることもあります。
プレイグラウンドのコードを作成してテストし、改良する
AIモデルを操作するためのスクリプトを作成します。完了後、プレイグラウンドを継続的にテストしてモデルの改良やコードの微調整を行い、生成されるコンテンツの品質を向上させます。
これらの手順を実行することで、組織のニーズに合う生成AIプレイグラウンドを設定して、様々なAIモデルの機能を試せるようになります。また、ローコードプラットフォームを使用すれば、これらの手順の一部を省略することもできます。どのような方法で用意されたにしても、プレイグラウンドは生成AIスキルの習得や研鑽に取り組むうえで最も有効なリソースであり、ユースケースの検討の場となります。
「好奇心に任せてあれこれ試すことで、開発者は連携のためにすべきことを学びました。スタッフの増員もトレーニングも行いませんでした。エンジニアリングチームの規模を変えることなく、すばやく拡張できたのです。さらに、ビジネス部門のメンバーやビジネステクノロジストをはじめ、全員がプレイグラウンドを利用して技術を習得できるようにしました」
OutSystems デジタルトランスフォーメーション担当バイスプレジデント Joanne Markow
手順3. ユースケース候補を検討する
ビジネスや業界には、生成AIのユースケース候補が数多くあります。具体的にどのようなアプリケーションを開発するかは、会社の目標、対象ユーザー、製品やサービスの性質といった要素によって変わります。組織にとって最も関連性と価値の高いユースケースを特定するため、タイガーチームは緊密に連携して機会の把握と優先順位付けを行う必要があります。
最初に、いずれかのユースケースについて生成アプリを開発すべきかどうかを判断します。「生成AIアプリの影響が最も大きい領域」で示した業界すべてで一般的なユースケースを確認すると、ビジネスの領域を改善すべきかどうかを判断しやすくなります。業界特有のユースケースに対応したいという場合もあるかもしれません。生成AIアプリケーションは主な業界のほとんどでうまく活用されています。以下は、そのごく数例です。
金融サービス業界における生成AIのユースケース
金融業界においては、生成AIのユースケースがいくつかあります。たとえば、生成AI搭載の不正検出アプリケーションは、アラートを確認して誤検出かどうかを判定し、そうであれば除外します。生成AI搭載のチャットボットは、モバイルバンキングアプリ上で顧客からの問い合わせに適切に対応し、迅速かつ正確に回答することができます。生成AIによるパーソナルバンキングアシスタントは、顧客が支出を管理し、将来の計画を立て、予算を簡単に管理できるよう支援します。
保険業界における生成AIのユースケース
保険においては、正確かつ公正にリスクを評価し、自然言語でその説明を行う生成AIが引受業務のプレイブックを書き換えています。請求処理は、かつての手作業では大きな労力を要しましたが、生成AIによって自動化されたことで急速に簡素化されています。保険会社はすでにモバイルデバイスやアプリに生成AIを導入して、顧客がボットの定型の質問ではなく、プロンプトや自然言語を使用して、見積もり、保険金請求、契約状況の追跡を行えるようにしています。
ユーザー事例: 生成AIによるクレーム処理の高速化
Ricohはデジタルサービス、情報管理、印刷、イメージングソリューションを世界200か国の顧客に提供している大手ベンダーです。Ricohはローコードプラットフォームを利用して、クレーム管理アプリケーションを作成しました。このアプリケーションは、ドキュメントイメージング、生成AI、機械学習、自然言語処理、RPAを利用して、クレームの受け付け、検証、解決を迅速に行うことができます。これにより、顧客満足度と顧客定着率が向上しました。
製造業界における生成AIのユースケース
製造には多くのプロセスやアクティビティがあり、生成AIアプリケーション導入の余地が多く残っています。開発したアプリにプロダクトマネージャーが作りたいものを伝えると、それをベースに様々なデザインや機能を生成してくれたらどうでしょう。また、生産計画と販売予測に基づいて必要な在庫量を予測したり、在庫切れや過剰在庫が生じないようにするための最適な補充時期を提案したりするアプリも作れそうです。
官公庁における生成AIのユースケース
生成AIは官公庁の可能性を広げます。リアルな3Dモデルや設計の違いによる影響に関するレポートを作成できる生成AIアプリを開発すると、都市計画担当者が住みやすくサステナブルで健全なコミュニティ作りを行えるよう支援することができます。また、緊急通報、交通監視カメラ、気象センサー、ソーシャルメディアフィードなどのリアルタイムデータを生成AIシステムで利用し、リソースの割り当て、避難ルート、治療の優先順位に関する予測モデルや推奨を生成することもできそうです。
手順4: リスクを特定する
生成AIには潜在的なリスクがあります。バイアス、ハルシネーション、サイバー攻撃、著作権侵害、不透明性などです。これは、アプリの信頼性、セキュリティ、倫理に影響するおそれがあります。こうした問題を避けるにはどのような点に注意し、どのようにすればよいかを以下に示します。
法的リスク
生成AIモデルは、記事、画像、コードといった既存の著作物や作品によく似たコンテンツを生成することがあります。これにより、知的財産権に影響を与えたり、侵害したりする可能性があります。著作権のある素材によく似たコンテンツをアプリケーションが生成した場合、訴訟や罰金につながるおそれもあります。このような盗作を防ぐためにも、問題になりそうなコンテンツを検出・フィルタリングし、必要なライセンスや権限があることを確認する技術を使用するようにしましょう。
プライバシーとセキュリティのリスク
生成AIモデルのトレーニングでは大量のデータセットを使用しますが、その多くに機密情報や個人情報が含まれています。そのため、プライバシーの侵害が生じるおそれがあります。また、生成AIモデルは入力データに悪意のある操作を加えて誤解を招くようなアウトプットや有害なアウトプットを生成するハッカーに対して脆弱です。暗号化、アクセス制御、データガバナンスポリシーといった堅牢なデータ保護対策や、敵対的学習や敵対的検知などを行うと、データを保護できます。
ガバナンスリスク
生成AIアプリは、事実に反するコンテンツを生成したり(ハルシネーション)、バイアスのかかった決定や不公平な決定を下したりすることがあります。たとえば、医療画像データでトレーニングを行ったAIモデルは学習によってがん細胞を識別できますが、正常な組織の画像がなかった場合、その組織をがんに侵された組織として誤識別する可能性があります。また、ChatGPT、Claude、Sora、DALL-E 2などの生成AIツールは無料で利用できるため、企業の非公開データをツール内やWebコンテンツで公開するといった想定外の使われ方をする場合があります。
こうしたリスクがあるため、AIの開発者と利用者全員が認識を共有し、ベストプラクティスに従うことが重要です。ファクトチェックメカニズム、人間による監視、信頼性スコアリングを使用して、信頼できないアウトプットをフィルタリングし、ハルシネーションを防止することを検討しましょう。
倫理的リスク
ジェンダー、人種、文化的固定観念などのバイアスを含むデータでAIモデルをトレーニングした場合、そうしたバイアスを引き継いだコンテンツが生成される可能性があります。これが差別的なアウトプットや攻撃的なアウトプットの生成につながると、ユーザーを傷つけたりブランドが損なわれたりするおそれがあります。たとえば、あるテクノロジー企業大手の求職用AIソフトウェアで、女子大学出身のエンジニア志望者が軒並み不採用にされるという事案がありました。これは、男性のみのチームの履歴書でモデルのトレーニングを行っていたためです。このリスクは、バイアスのない多様なデータでトレーニングを行うことや、バイアス検出やバイアス補正といった手法を使用することで軽減できます。
透明性リスク
生成AIモデルは複雑で不透明であるため、アウトプットがどのようになるかを想定しづらいケースもあります。監査やトレーサビリティが求められる法務、財務、医療向けアプリケーションでは、これが問題になります。このリスクに対応するには、説明可能なAI手法を開発し、ヒューマン・イン・ザ・ループ型の監視を実装して、明確なアカウンタビリティフレームワークを確立する必要があります。
これらのリスクを認識し、ここで示したメカニズム、ツール、手法を使用することで、開発者チームはあらゆる業種のあらゆるユースケースにおいて、セキュアでバイアスがなく事実に即したオリジナルの説明可能な生成AIアプリケーションを作成できます。
手順5: 準備状況を評価する
必要なものをしっかり確認することなく、いきなり生成AIアプリケーション開発を始めないようにします。生成AIアプリケーションの開発に向けた組織の準備状況を評価するため、タイガーチームはまず現在の人材、テクノロジー、習熟度合いを調査し、ギャップを把握したうえで対応方法を決める必要があります。
IT部門とビジネス部門の準備状況を把握する
IT組織にAI、機械学習、ソフトウェア開発の適切なスキルと経験があることを確認します。これらの役割は生成AIシステムの設計、開発、保守において重要です。各分野の専門知識があるかどうかも確認します。生成AIの導入を計画している領域のビジネス知識も考慮に入れる必要があります。
テクノロジースタックとデータスタックを確認する
必要なコンピューティング能力とインフラを確認します。生成AIは大量のリソースを消費する場合があります。それに対応できるハードウェアやクラウドサービスを確保し、必要に応じて拡張できるようにしておくことが重要です。
データアセットが多様かつ高品質で適切に整理されているかどうかを確認します。生成AIはデータに大きく依存するため、堅牢で関連性の高いデータセットの存在が欠かせません。データを量と質の両面から検討し、幅広いシナリオや極端なケースに対応できるかどうかを確認します。生成AIプロジェクトを成功させるためには、これらすべてが重要な要素となります。
ギャップを特定する
プロジェクトの妨げとなりそうな欠落がないか確認しましょう。生成AIのテクノロジーやベストプラクティスに関するチームの専門知識を高めるために、メンバーのトレーニングや採用といった投資が必要かもしれません。学術機関や業界パートナーとのコラボレーションの機会を見つけ、追加の知識やリソースを活用できるようにもしておきます。
最盛期に備えてデータの下処理をしておく必要もあるでしょう。クリーニングやラベリングを行い、幅広いシナリオに対応できるようにします。このプロセスは時間がかかる可能性があるため、適切に計画しておきましょう。生成AIのニーズに対応できるよう、高性能なコンピューティングツールや特別なソフトウェアツールなどでテクノロジースタックをアップグレードする必要が生じるかもしれません。こうした投資を行うための予算やリソースがあるかどうかも検討します。
ガバナンスや倫理上の考慮も行います。責任を持ってバイアスのない生成AI開発を行うためのポリシーが作成されていないとすれば、それは大きな欠落です。そうした問題への対処が終わり、チーム全員がこうした原則に従えるようになっていることを確認するまでは、プロジェクトを進めないようにします。足りない部分を正直に確認し、そうしたギャップを計画的に埋め、組織が生成AIに対応するための準備を整えられるようにしてください。準備とマインドセットが整っていれば、生成AIの力をフル活用してビジネス部門に適切なアプリを提供できるようになっていくでしょう。
手順6: パイロット版を特定する
準備状況を評価せずにあわてて生成AIプロジェクトを進めるべきではないのと同様、一度に多くのことをこなそうとしすぎるのもよくありません。最初はパイロットプロジェクトから始めましょう。ただし、パイロット版なら何でもよいというわけではありません。生成AIソリューションのテストにふさわしいものを選ぶことが重要です。明確なビジネス目標があり、テクノロジーによって実現可能なものをパイロット版にする必要があります。適切なパイロット版を見極めるうえで、次のような基準が参考になります。
解決すべき明確な問題がある
特定のビジネス成果を想定しないまま着手するのは避けましょう。はっきりした問題を選択します。複雑すぎないものの、生成AIの可能性を十分示すことができる手応えのあるものにします。候補としては、製品説明やカスタマーサービスの応答の生成といった反復的なタスクの自動化や、ソーシャルメディアの投稿やマーケティングコピーといった新しいコンテンツの作成などが考えられます。ビジネスとの関連性があり、明確な成功基準のあるユースケースを見つけることが重要です。これは、価値やROIを実証するためです。
評価できる成果を定義する
ビジネスで最も重視しているKPIを把握し、成果の評価方法を開始前に確認しておきます。たとえば時間の短縮、コンテンツの品質、ユーザーエンゲージメントなどです。次に、各KPIについて、「コンテンツ作成時間の30%短縮」や「クリックスルーレートの10%増加」といった具体的で定量化できる目標を設定します。最後に、パイロット運用中にこれらの指標を追跡してレポートを作成するためのツールやプロセスがあることを確認します。
関連データへのアクセスを確保する
パイロット版には、トレーニングに適したデータセットが必要です。生成AIアプリケーションで対処することになる実際のシナリオを代表する、幅広いデータを用意しましょう。場合によっては、事前にデータの収集や整理を行う必要があります。データの品質も大切です。クリーンで一貫性があり、適切にラベル付けされていることを確認します。
ユーザーエクスペリエンスを検討する
快適で直感的なUXを設計することはユーザーやステークホルダーの支持を得るうえで重要です。アプリケーションのターゲットユーザーとそのニーズを検討し、ユーザーの視点で考えましょう。ユーザーがAIで生成されたコンテンツやアウトプットをどのように操作するか、品質、関連性、使いやすさの面で何を期待しているかを想像します。生成AI機能を既存のツールやワークフローに統合し、効果的な使用法について明確なガイドを提供します。人間らしさを忘れず、ユーザーが必要に応じてフィードバックを行ったりサポートを受けたりできるようにしましょう。
手順7: テクノロジーを選択する
本eブックの第2章と第3章に、従来の生成AIアプリ開発、デプロイ、保守、更新に必要な大半のツールに関する情報と、ローコードがもたらすメリットが記載されています。パイロット版や実際の生成AI搭載アプリケーションで使用するテクノロジーを選択するため、生成AIタイガーチームですべての情報を詳しく確認し、ソリューションを独自に調査する必要があります。
これにあたっては、ツール、プラットフォーム、機能の将来性も考慮することが大切です。生成AIアプリケーション開発の世界はまだ流動的であるため、主流として残りそうなものを見極めましょう。そうすることで、組織に適した生成AI開発手法を選択することができます。